怪獣エスケープ

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怪獣エスケープ

 その日の収録もいつものように終わった。気の置けないメンバーとスタッフ。最早過ごした時間は家族よりも長い。何せ十代でデビューして以来、人生の半分以上の時間、活動を共にしている。このままバラエティーやCMに出て、たまにコンサートを開いて死ぬまで生きていくこともできるだろう。刺激は、視聴者が思う程には多くはないかも知れないが、それでも退屈をしない為には十分だ。  と、自分に言い聞かせながら収録を終える度に、俺は自分の吐いた嘘の出来の悪さに気付かされる。それを忘れる為に次の現場に向かう。カメラが回っている間は忘れられる。しかし「お疲れ様でした」と声を掛けられる度に、また目が覚めてしまう。俺が本当にやりたかったことはこんなことじゃない、なんて青臭い十代みたいなことは言わない。単に、俺にはやりたいことなんてそもそもなかったんだ。偶然、母親がママ友に唆されて無断でオーディションに送った写真が通ってそのまま事務所に入れられた。勿論、悪い気はしなかったし正直得意になってもいた。日本中の視線が俺たちに集まった。そんな「俺たち」の一員になれることなんて普通ない。だから俺は「俺たち」の一員でいられるように頑張った。  だけど、それで結局俺は何者になったのだろう。言わずもがな「P-m@sのトーク担当、お調子者の須賀谷聡」だ。茶の間の誰もが俺をそのように見る。街で見知らぬ誰かから声を掛けられた時、「サインをください」とは言われても「今何を考えていますか」とは決して言われない。マイクを向けられてそう訊かれる時には、俺はただ渡された原稿を声に出して読んでいれば良かった。だからどうって訳じゃない。だけど、どうせだったら俺はもっと本気で演じてみたかった。俺は自分が騙されてることにすら気付かないくらい、完璧に自分を騙せる、役者になりたかった。
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