ゴッド イン ザ クレープリー

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 本当にうまいものは、素材と技と空腹が作る芸術だ。芸術である以上、うまさは最終的に美しさにたどり着く。花が飾られているわけでも、飴細工が載せられているわけでもない丸い生地を四角く四カ所折っただけのこのガレットに、僕は美しさを見いだしてしまった。 「香辛料はピンクペッパーなんですね」  ガリリと噛んだ丸い胡椒の刺激が脊髄まで走り抜けてゆく。  なんてものを……なんてものを作ってしまったんだ、この店の親父は!  カナコさんが入り口を引きながら言った言葉を思い出す。 「コンプレットと名乗るだけはあるでしょう?」  自分が焼いたわけでもないくせに実に偉そうにそう言って、最後の生地一口分で皿に零れた卵の黄身を拭いながらカナコさんはフォークを口紅の落ちた口の中に突っ込んだ。  カナコさんは美人だけど、飯を食ってる時に他人からどう見えるかなんて気にしない。うまいものを頬張っている時は、特に。 「ちなみにフランス語には名詞にも性があるのは知ってるわね? ガレットは響きの通りに女性名詞だから、形容詞もコンプレ、ではなくコンプレットが文法的に正しいってわけ」 「なるほど? そうするとこのガレットはものすごい美女なわけだ」  楽しげにくつくつと笑いながらカナコさんがまだまだ泡の残っているカフェオレのグラスにキスをした。
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