ゴッド イン ザ クレープリー

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 店内はとても狭くて、すでに何組かの客が入っていた。客席の一部に瓶ジュースのたぐいが入った冷蔵庫が置いてあるし、売り物なのかストックなのかよく分からないジャムやはちみつなんかがすぐそこに詰んであるし、店内BGMは一言も理解できない流暢なフランス語で、そしてなにより、チーズの焼けるすごくうまそうなにおいがしてきて、お世辞にもゆったりなんて言えない席についた瞬間、僕はもう間違いなくうまいもんが食えることを確信した。  やたらおしゃれな字体で書かれたメニュー表をじっと見つめていたら、カナコさんが対面から突き刺すような視線を送ってきた。あれだけ歩いて腹が減っていて、すぐにも注文したいんだろうなとは思うけど、ここで変な注文をして見合いのセンスなし男と同列に扱われるのは絶対に嫌だ。  この人ほどじゃないとはいえ、僕だって学生時代は東京グルメ研究会の一員で、今もそろらへんのOLよりは断然食い物にこだわりがあるんだから。
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