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「決まったの?」
メニュー表から顔を上げた瞬間、カナコさんが声を掛けてきた。
「ええ。カナコさんの認めたお店なんですよね? だったら選択肢はひとつしかありませんから」
僕のその答えに、カナコさんは今日はじめて満足気ににっこりと微笑んだ。そういえばそろそろ芍薬の季節だな、なんて僕は思った。
「すみません、注文いいですか」
カナコさんがウェイトレスに合図を送り、僕らは同時に息を吸った。
『ガレット・コンプレットください!』
完璧なユニゾンが決まったが、ウェイトレスはにこりともせずにこう言った。
「飲み物は?」
「あ、二人ともカフェオーレのグラッセで。食後にクレープもいただくと思いますのでよろしく」
あれ、シードルじゃなくていいのか、と目を見開いた僕にカナコさんは肩をすくめてこう言った。
「帰ったらもう少し仕事残ってんのよね……」
だったらやっぱりさっき徒歩じゃなくタクシー移動したらよかったんじゃないのか?
そんなことを思わないでもなかったが、うまいメシを食うにはコンディションだって大事だ。何より、わざわざこの距離を歩いてようやく食えるというだけで価値が上がる気がする。
まあでも本当にうまい飯を食うコンディションと考えたら、このひとの愚痴を聞きながら食うのは決して好手ではないと思うが。
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