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「でも君が常識のある男でよかったわ」
あんたの言う常識がまず非常識だからなあ……という言葉を飲み込むかわりに、僕は今届いたばかりのアイスカフェオレを一口飲み込んだ。カフェオレという名がついていはいるが、グラスの上部にふわふわに泡立てられたフォームミルクがたっぷりと浮かんでいる。一見カプチーノのようだがベースのコーヒーがエスプレッソではなさそうなので、やはりカフェオレに間違いはないだろう。はっきり言ってメチャクチャうまい。
「それってお見合いのセンスなし男と比べてます?」
「だって衝撃だったのよ? 窯焼きのナポリピザだって言ってんのに、マリナーラもマルゲリータも頼まないとか言い出すんだから! 挙げ句がなんと、フェトチーネってなんでしょうね、だって。だったらなんであんたこの店選んだわけ、ってワイン片手に二時間問い詰めたわよ」
言いがかりじゃねえか!
僕は微笑み返しの技を繰り出しながら、心の中で相手の男性のために十字を切った。見合いでせっかくオシャレな店をチョイスしたのに二時間ピザ蘊蓄聞かされて説教させるとか、難儀にもほどがあんだろ。たぶんきっと、普段はチェーンの牛丼なんかを食ってるタイプの男性が、無理して雑誌だかネットだか同僚に教えてもらった店に予約を入れたとかそんな話なんだ、かわいそうに。
でも大丈夫ですよ、ピザ男さん。そんな理不尽なダメ出ししてくる女、このひとくらいなもんですから。おそらく彼は次の女性の素直さまともさかわいらしさに感銘を受けて、さくっと成婚できることだろう。もしもまだお見合いを続けるだけの精神力が残っていれば。
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