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見ている人にはわからないが、身内からすると、完全に彼女がカメラを意識しているのは間違いなかった。
「とりあえず、3万で良いか?」
「感謝します、おじ様、神様、大明神、なまんだぶ、なまんだぶ」美恵子は合掌して丈を拝む。
「それ、やめてくれないか。いつも言うけど、なんだか、死んじゃったような気分になるんだから」
「そうかなあ、おじ様、素直じゃないから」
「僕はまだ死ぬつもりは無いよ、成仏なんてなおさらだ」
「そう?おじ様を新興宗教の教祖様扱いする人、意外と多いみたい」
「そうか?いや、噂は僕も聞かないわけじゃないけど、”超研”も、別に宗教法人じゃないし」
「だから、そういう話じゃなくて~」”この叔父は天然なのじゃないか”という疑いをぬぐいきれない美恵子であった。
「で、なんか、あったのかい、美恵子クン」
「・・・わかりますか?」
「上司と上手くいかなくなるとパチンコで憂さを晴らすってのがいつものパターンじゃないか」
「すみません」
「いいよ、出なかった挙句に怒り狂ってパチンコ台を殴り壊すよりは遥かにましだもの。しかし、キミの上司って、あの伝説の田中善衛門総監の息子さんじゃなかったか?よほどかの切れ者で、しかも現場にも理解のある人物だって話じゃないか」
「そうなんですけどね~あの人、慎重居士だから」
「僕は、美恵子が無鉄砲なんだと思うんだけどね。ハリウッドのアクション映画じゃないんだから、主人公が弾丸の雨の中でも軽症で済むはずもない」
「ちゃんと、防弾服を着ていますけど。近頃の防弾服は、スポーツウエア並みに軽いんだから」
「・・まさか、また単身で敵の本拠に飛び込もうとかしていたんじゃないだろうね」
「わかりますか」
「正解か・・相手は?」
「でんでん虫」
「でんでん虫?あ、もしかして、エル・スー・カーゴ?マフィアの」
「ええ」
「あの大手の、世界的に、麻薬と武器の密輸で有名な?あんなのが日本に?」
「ええ、一度は撃退したのだけど、また、最近、日本に魔手を伸ばしてきたんです」
”エル・スー・カーゴ一家”かなり恐るべき犯罪マフィアなのだが、その昔その暗躍を国会で取り上げた大臣が、答弁書を読み間違えて”エスカルゴ(でんでん虫)”と連呼して以来、それが有名になってしまった。そのために、その凶悪さを日本ではいささか舐めて掛かる傾向にある。
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