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飴の日サァビス
「あ、痛だぁ」
突然、教室内でピンポン玉大の飴玉を、オーバースローでぶつけられた。
しかも額。おでこにスコーンと軽快な音をたててだ。
おでこの皮膚は薄いから、直接骨に当たった音と言っても過言ではない。
「あ」
やべ、と言わんばかりの苦笑いが聞こえた。
おそらく、飴を投げたと思しき声主だろう。
額を押さえながら見上げると、やはりその飴投手は半笑いなのである。
状況を見ると、まず飴ピッチャーは同じクラスの男子であった。
ピッチャーといっても、何も飴玉をボールに見立てて野球をしようとしてたわけじゃない。
私を隔てた向こう側にいる友達の男子に、オーバースローながらも緩やかな弧を描いてキャッチボールのように飴を投げ渡そうとしたら、折悪く、突然に席を立った私の額がそれを妨げてしまったらしいのだ。
あ、痛い。地味に痛い。痛さがじわじわ来る。
「あー、ごめーん。大丈夫? ごめんねー」
「…………」
痛さのあまりクッと閉じていた目を開いて、さらに状況を確認する。
私に近づいて馴れ馴れしく顔を除き込もうとするその飴ピッチャーは、クラスでも──いや、学年切ってのイケメンのモテ男で、恋愛ゲームに出てきそうなイケボの持ち主である早乙女君という人物だった。
明るいサラ髪に高身長。
顔立ちが整っていて、まるで少女マンガから抜け出たよう。
──どうりで、教室内が一瞬静まった後、さざ波のような笑いが起こり、羨望の響きすらある仄かな黄色い声が聞こえたわけだ。
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