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「一瞬ゴルフボールが当たったのかと……」
話したこともない相手だが、額を押さえながらつい呻いてしまう。
「いやいや、そんな大袈裟な。ただの飴だって。飴1個」
にこやかにして爽やかに。
そう言いながら人差し指を一本立てて「たかが飴1個じゃん」とアピールするように宥めてくるモテ男。及びイケボ。
「ごめんねー。えっと、何さんだっけ」
「鵜飼です」
「鵜飼さん、ごめんね。お詫びにソレあげるから」
ソレとは、私の額に当たり、私の机へと転がったフィルム包装された飴であり。
そんな、物のついでみたいに──しかも机に転がったヤツを「お詫び」とか言って差し出されても、「え?」としかならない。
だけど、代わりに「え?」と声をあげたのは私ではなく、私の背後にいた人物。つまりは本来、例の飴を受け取るはずだった人間だ。
「え……ソレ俺の……」
俺に投げ渡そうとした飴を無許可で違うヤツにあげるんかい、という悲しい響きがあった。
「……」
えー、いいじゃん飴1個ぐらいー。また今度あげるからー。
まー別にいいけどぉ。
そんなやり取りが頭上で交わされる中、机に転がった飴玉をじっと見つめる。
……ピンク色をした、まん丸の大玉。イチゴ味だろうか。
ゴルフボールやピンポン玉は大げさだが、なかなかにでかい。
小さい飴ならともかく、こんなでかい飴いきなりもらっても困る。
それにこの人。早乙女君。
反省の色が皆無。
イケメンだかなんだか知らないが、舐めてんじゃないのかこの人。飴だけに。
モテ男だからって、笑顔で謝れば許してもらえるとでも思ってるのか。
痛みと状況と飴のでかさ、それに相手の驕り、図々しさ。
全部ひっくるめて、だんだんと腹が立ってきた。
「こんなでかい飴いりません」
だから私は、イケメンの施しをきっぱりと、冷淡に断ったのだった。
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