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「スズコ」
大きくも小さくもなく、口からぽろっと音が出た。同時に目の前の手すりも、3人の影も霧がはれるかのように消えていく。
「本当に勘のいい」
「ふふふ、それが心よ、ココロ。ふふふ」
「声のある世界に行ける。君はもう取り戻した、そうだろう」
もう見えない影たちの、3つの音を遠くに聞きながら、少年は真っ白な光に包まれていく。3つの音は笑い声に変わり、次第に笑い声もキンキンと両耳を回る波になっていた。
辺りは少しずつ暗くなっていき、身動きがとれなくなっていった。少年は考えた。
ココロ。心、心。そうか、心がないと声は届かないのか。声、出したい。出したい。出して、呼びたい。呼ぶ?何を?名前だ。そう、名前。
もう一度、名前を。
スズコ
スズコ
すずこ
すずこ
会いたい。
スズコ
スズコ
あと少し、もう少し。喉、動け。舌、動け。唇、動け。スズコ、スズコ。ああ、光だ。もうすぐだ。スズコ、すずこ。指が動きそうだ。会いたい。すぐに。
彼は右手のひとさし指をかすかに動かすことができた。光もだんだん近づいてくる。一瞬の強いフラッシュ。ぼやけた視界が一気にひらけた。
「すずこ」
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