第一章

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

第一章

 狙いすましたビームの一撃を受け、悲鳴を上げて怪獣は倒れ、やがて大爆発した。俺は空を高く見上げると、短い気合を発して大空高く舞い上がり、やがていつものように物陰に隠れて変身を解いた。  使った小道具がバラバラと周囲に落ちるのを、かき集めて片っ端から万能収納ポーチに入れる。傍から見ているとみっともない限りだが、ヒーローを気取るにも、それなりの努力が居るのだ。  人間を最強の兵器に変えてくれる、猫型宇宙人の同居人が与えてくれたナノマシンカプセル。最近の俺は、すっかりその使い方に慣れてしまった。今では変身のためにフィギュアを用意する必要も無い。元々、強く心にイメージすることさえ出来れば、どんな姿にだってなれるのだ。  そして、以前は出来なかったビームの発射や、空を飛ぶことだって、今は自在にこなすことが可能だ。ビームは防衛隊の光線銃を、飛行は小型ドローンをナノマシンでレイブンに同化してしまう事で解決した。余計なエネルギーを食う分だけ、活動時間の制限は厳しくなったが、今の所は大した問題にはなっていない。  調子に乗り過ぎるとボロを出すぞ、そう心の中でもう一人の自分が警告を出すのだが、こう物事が上手く行くと、つい調子に乗ってしまうのが俺の悪い癖だ。そうとは解っているのだが、基地内で漏れ聞こえてくる噂が、ちょくちょく俺の心をくすぐって来る。イーグルチームの中で、レイブン、つまり俺が変身したヒーローに、ピンチを救われる機会が増えて来ている事に対し不満が溜まって来ているらしい。  特に巨大ロボットであるアイアン・ジャイアントのパイロットであるヤマト隊員は、ここの所立て続けにピンチを救われているとあって、かなり複雑な心境らしい。そんな話も、俺の心の奥深い所に隠した優越感を満たしてくれる。何しろ、ヤマトは良い友人ではあるが、同時に俺の恋敵でもあるのだから。  と言う訳で、どうしようも無いお調子者の俺は、すぐ後ろに大きな落とし穴がぱっくりと口を開いているとも知らず、その日もタカギ班の詰所に意気揚々と出勤したのであった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!