一章 桜の大群

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一章 桜の大群

 はらひらと、歩道に桜の花が舞っていた。  そうか、日本は春か。  口に出すまでもなかった。私は立ち止まって、ただ噛み締めるようにそう思った。日本の桜を私はまる4年の間、一度も見ていなかったことにその時ようやく気が付いたのだ。顔は力なく綻び、私はこれからのことを考えながらそれをぼーっと見上げていた。ピンクの花びらが蝶のように舞っていた。ひとひらが私の頬にぴとっとくっついた。  冷静なんかじゃない。  どちらかというと私はバカで単純だ。  そして愛し方も本当はよく分かっていない。  ただ、Xデーが来ただけだった。  私の新しい人生の幕開けは、ほんの三十分前の福岡国際空港のところまで遡る。  私は今朝、香港を出発して、つい三十分前に帰国したばかりだった。時計は午後三時を過ぎていた。  荷物検査のところをあっけなくスルーして、私は驚いて少し振り向いて、直ぐに怪しまれないように足早にその場を立ち去り、タクシー乗り場でタクシーに滑り乗った。  天神でタクシーを降りて、直ぐに目に留まったコンビニの店先にあるゴミ箱にそのハコを捨てた。それから何もなかったように早歩きでそこから去った。あてどもなく、逃げるようにいそいそと歩いて行くと天神中央公園へ出た。そしてたった今、桜の大群に出会ったのだった。  正直、昔から桜があまり好きではなかった。あの満開に咲き乱れる感じが仰々しくて、狂気じみていて、派手すぎて。梅の花の方がひっそりしていて好きだった。そうだったことすらこの四年間忘れていた。少しずつ、色々な感覚を私は取り戻したりするのだろうか。  このろくでもない、一度捨てた筈の、新しい人生の中で。
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