二章 スケルトンな夜

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 いつも深夜二時にやって来る大柄なおばさんがいた。スタッフは皆その人のことを、細木数代と陰で呼んでいた。あの有名人に物言いがとても似ていたからだ。そして数代も自称占い師だった。 「数代来ましたよ」  タツマキくんは小声で私に囁いた。  数代はいつものように店内をぐるりと回って、いつものとんかつ弁当を手に持ってレジの方へやって来た。数代はいつでもすっぴんで、白髪も生え放題の伸び放題だった。少しラメの入った黒のワンピースのナイトウェアのままで、レジカウンターに肘をついて、もたれかかったいつものポーズで話しかけてきた。 「お姉ちゃん、お金貯まってる?」  今日のターゲットは私だった。 「全然です」  私は適当に返した。 「しぇんぢぇんって、知ってる?」 「何ですか?それ」 「中国の街の名前。覚えておきなさい。香港の上にある。あなた今のまま日本にいたらつぶれちゃう。一度日本を出なさい。方角的には東南アジアか華南地方がいい。しぇんぢぇん辺りがお薦めよ。もう充分、苦しんだんじゃない?」  数代の目は笑っていなかった。  蛇に睨まれた蛙のように、私の目もずっと数代を見ていた。 「あの、怖いっす」  タツマキくんが割り込んでくれた。  私は我に返ってレジを打ち、数代はお金を払い、タツマキくんが数代に袋を渡した。  帰り際にもう一度、 「しぇんぢぇん、ね~」  数代は念押しの様に私の目を見てそう言って、去って行った。 「今日の数代はちょっと本物っぽかったな」  その背中を見送りながらぼそっとタツマキくんが呟いた。  
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