二章 スケルトンな夜

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 しぇんぢぇん。  それが中国広東省の経済特区の街の名前だということは調べれば直ぐにわかった。日本語で読むとシンセン。中国語で読むとしぇんぢぇん。 「数代の言葉を真に受けて本当に留学しちゃう奴なんて、小比類巻さんくらいしかいないですよ」  とタツマキくんは品物を補充しながら真面目に言った。 「寂しくなるな」  とも言ってくれた。お客のいない店内で、レジカウンターの中からタツマキくんをぼんやり見ていた。制服で隠れているが、今日もタツマキくんの左腕には昔飼っていた陸カメのポン太のタトゥーがあった。小学生の頃に家出してしまってもう二度と帰って来なくなったポン太を、自分の体に刻みたくなってしまう気持ちは私にはよく分からなかったが、タトゥーを刻むならお洒落な言葉でも、いかついドクロでも昇り龍でもなく、絶対ポン太だ!と思ってしまうセンスはとても彼らしいと思った。タツマキくんはポンタの写真を見ながら、泣きながら彫ったという。 「ありがとう」  私は言った。  程なくして、私はシンセンへ旅立った。
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