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そう言って瑞希は、俊一の肩をぽんと叩く。確かに普通なら引くのかもしれない。俊一のこの情熱は異常といえるくらいだ。
でも――
癪だけど、好きなアイドルの話をめいっぱいする俊一の笑顔が、好きなんだ。
「桜になりたい 愛でられ 舞って あなたの元へ 辿り着きたいの♪」
おもむろに瑞希が口ずさむ。
俊一が笑う。
「今はまだ蕾だけど 待っててね 桜色のこの気持ち♪」
そこまで歌うと、瑞希は突然押し黙った。
「ん?何で最後のワンフレーズ歌わないの? 寸止め気持ち悪いじゃん」
「もうバス来るから」
そう言って車道に目を向ける。瑞希の言う通り、バスは数十秒後に到着した。
俊一を先に乗るように促す。
そして瑞希は、俊一の背中を見つめ、声を出さずに口だけを動かした。
――……あなたを好きな この気持ち いつかきっと 届けるから――
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