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その日はたまたま傘を忘れてしまった。
私の家は高校から離れていたため、いつもバスを使っていた。しかし学校からバス停まで、そしてバス停から家までの距離が地味にあるのだ。そのため、傘の有無に関わらず、雨の日は憂鬱極まりなかった。
「はぁ……」
学校の昇降口を今まさに出ようとする所で、深いため息をひとつ落とす。
「……雨より速く走ればいいだけ。そうすれば私は濡れない」
誰かが言っていた持論を私の持論の如く、しかし誰かに言う訳ではなく呟いた。
そして私は思いっきり助走をつけて走り出――
「あの」
――そうとするもあえなく失敗、大胆に滑って転ぶ私。
うわぁ、制服が水浸しになってしまっているではないか。……それより、顔面から水たまりに突っ込んでしまった方がダメージが大きい。
全く、誰だこんな時に私に話しかけたのは……。
「……何ですか」
少し苛立たしげな声になるのも仕方ないだろうと思い、苛立ちを隠さずに返事をし、私は顔面と制服を水びたしにしたまま声の主を見上げる。
……わぁお、儚げな美青年ではありませんか!
彼は同じ学校の制服を着ている。
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