彼女という存在

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保健室に入ると、静寂が訪れるかと思いきや賑わっていた。扉を開ける音でこちらに気付いたのか、私に向かって話しかけてくる。 「あれ、ミサじゃん。体調悪いの?」  校則違反の髪色をした彼女は、二年から同じクラスになった皆藤さん。クラスの全員の女子を下の名前で呼ぶ気さくさ。髪の色は生まれつきらしく、最初の頃は先生方も注意していたらしいが、今では誰も注意していないらしい。噂では、彼女自身が先生方を説得したとのこと。 「ちょっと、振られちゃって。」  友達にも言わないようなことを、なぜか彼女に言ってしまった。それも振られてから何時間も経っていないのにも関わらず。 「そりゃあ、相手の見る目が無いか。既に彼女がいたんだろうねー。」  彼女は優しい、こういうのは良くないけど見た目に反して、彼女はクラスの誰よりも優しいと思う。 「皆藤さんは、優しいね。」  私がそう言うと、不思議そうな眼で私を見つめた後、笑顔で返してくれた。彼女は何を思ったのか、ゆっくり私の方に歩いて来て、保健室の先生などお構いなしに私を抱きしめて来た。 「ちょ、ちょっと?」 「まあまあ。つらい時はハグが一番だから。」  彼女のいつも以上に優しい声で、そう言われてしまうと無暗に彼女を退けることは出来ず、彼女の肩に顔をのせたままでいた。こんな状態なのにどこか冷静でいる私は、彼女の身長が私とさほど変わらない事実に気付いた。だからどうだと言われればそれまでなのだけれど。  それにしても皆藤さんはいつまでこうしているのだろう、正確には計っていないけれど五分は経っていると思う。両親以外とハグした覚えもないし、こんなに長く誰かとハグしているのは初めてのことだ。  なんだか不思議な気分になってくる。今まで感じたことの無い様な、言葉には出来ないけれど。 「あれ、ミサもしかして照れてる?」  照れているのだろうか、同じ女の子とハグをしているだけなのに。  そんなことを言う彼女の顔を見ると、普段見ることの無い顔がそこにはあった。  顔を赤らめる彼女の姿が。
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