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「はぁっ…」
大きな青山商事のビルを見上げながら、小さなため息をついた。
傘を返すために待っているとはいえ、エントランスの窓ガラスに映る自分を見つめていると、その醜い姿に自分でもウンザリしてくる。
やっぱりこんな姿でもう一度会うなんて、あの人に失礼だよね。
出来るだけ早く返したかったけど、もう少しまともな姿になってから出直そう。
傘を握りしめながら、私は駅に向かって歩き出した。
…その時だった。
「きゃっ…」
何かにぶつかったような、どんっという衝撃とともに、私は持っていた傘を落としてしまった。
そして目の前には誰かがいて。
ふと顔をあげた瞬間、あまりの驚きで時間が止まったような気がした。
「あっ、あの、すみません!」
「いや、別にいいんだけど。いいんだけどさ?今、君、完全に下向いて歩いてたよな?そんな下ばっかり見てたら人にぶつかるのは当たり前だし、ちゃんと前を向いて歩いてくれないかな」
「はっ、はい!本当にすみませんでした…」
ドキドキしながら、慌てて言葉を返した。
何故なら、目の前にいるのはあの時のあの人で。
私はハッとなって落ちてしまっていた傘を慌てて拾った。
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