1415人が本棚に入れています
本棚に追加
絶対に、何があっても振り返りたくなかった。
「じゃあ次、背筋だな!」
「はい、分かりました」
振り返らないまま、健太にそう返事をした。
何故なら、健太の隣にいたのはまさかのあの時のあの男で。
私に優しく傘を貸しておいて、返しに行ったらあんなひどい態度をとってきたあの塩対応男だったからだ。
今でも思い出しただけで腹が立つ。
でも、何であの男がそこで健太と一緒にいるの?
「おい、聞いてる?」
「ひゃっ!」
モヤモヤしながら立ち尽くしていると、肩を掴まれたせいか思わず変な声が出てしまった。
「ははっ、ひゃ!って何だよ、あははっ」
健太の笑い声が大きく響く。
「なかなか面白い反応するなぁ、健太の担当の子?」
そしてすぐ後ろからはそんな声が聞こえてきた。
「はい、俺の担当してる奴なんですけど、こいつ幼なじみなんです」
「幼なじみ?へぇ~っ!」
「っておい真琴!うつむいてないでこっち向いて挨拶しろよ」
……何でこうなるかな。
絶対に顔を上げたくない。
「真琴、聞いてる?失礼だぞ」
…分かってるよ。
健太が敬語を使ってるってことは、おそらくここの顧客だろうし、もしかしたら健太の担当のお客さんなのかもしれないし。
あぁ!もう!
知らない!もうどうにでもなれ!
そう覚悟を決めると、ゆっくりと振り返って顔をあげた。
最初のコメントを投稿しよう!