1363人が本棚に入れています
本棚に追加
/319ページ
「いっ、痛いなぁ!もう!」
つねられた手をムッとしながら引き離した。
「とりあえず、家まで気をつけて帰れよ。あの電車っつーか路線、チカン多いみたいだし」
「えっ」
「ははっ、まぁ真琴はそんな心配しなくても大丈夫か!」
「はぁ?あんたねぇ」
言いながら、健太の脇腹にパンチをくらわせた。
「ちょっ、骨折するだろ!」
「ひ弱か!」
わざと脇腹を押さえながら、オーバーなリアクションをする健太。
そんな姿に呆れながらも、私は何故だか笑ってしまっていた。
「じゃあまた明日な!」
健太はまだまだ夜まで仕事が残っているとかで、忙しそうに受付カウンターの奥へと消えていった。
それから私もすぐにシャワーを浴びて、初めてのジムをあとにした。
家までは、電車で7駅だ。
乗り換えもないし、そこまで混んでる時間帯でもない。
疲れ切っていた私は、電車に乗り込むとすぐにキョロキョロと座席を見渡した。
だけど座席はほぼ埋まっているし、空席があっても小柄な女性が座れる程度の幅しかない座席には、巨体の私ではどう頑張っても座れそうもなくて。
ドアの入り口付近に立ち、発車した車内から移り変わる景色をただジッと眺めていた。
「はぁっ」
疲れたなぁ。
ぼんやりと遠くを見つめながらため息をついた。
でも、とりあえずは健太のプログラムはこなせたわけで。
一日目にしては上出来じゃない?
不思議な達成感。
提示されたものをやりきるって、意外にスッキリするものなんだな。
なんて思っていたその時、視界に入ってきた大きなビルに、私は一瞬で目を奪われた。
それは青山商事の、大きな大きなビルだった。
最初のコメントを投稿しよう!