あの男が現れました

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「いっ、痛いなぁ!もう!」 つねられた手をムッとしながら引き離した。 「とりあえず、家まで気をつけて帰れよ。あの電車っつーか路線、チカン多いみたいだし」 「えっ」 「ははっ、まぁ真琴はそんな心配しなくても大丈夫か!」 「はぁ?あんたねぇ」 言いながら、健太の脇腹にパンチをくらわせた。 「ちょっ、骨折するだろ!」 「ひ弱か!」 わざと脇腹を押さえながら、オーバーなリアクションをする健太。 そんな姿に呆れながらも、私は何故だか笑ってしまっていた。 「じゃあまた明日な!」 健太はまだまだ夜まで仕事が残っているとかで、忙しそうに受付カウンターの奥へと消えていった。 それから私もすぐにシャワーを浴びて、初めてのジムをあとにした。 家までは、電車で7駅だ。 乗り換えもないし、そこまで混んでる時間帯でもない。 疲れ切っていた私は、電車に乗り込むとすぐにキョロキョロと座席を見渡した。 だけど座席はほぼ埋まっているし、空席があっても小柄な女性が座れる程度の幅しかない座席には、巨体の私ではどう頑張っても座れそうもなくて。 ドアの入り口付近に立ち、発車した車内から移り変わる景色をただジッと眺めていた。 「はぁっ」 疲れたなぁ。 ぼんやりと遠くを見つめながらため息をついた。 でも、とりあえずは健太のプログラムはこなせたわけで。 一日目にしては上出来じゃない? 不思議な達成感。 提示されたものをやりきるって、意外にスッキリするものなんだな。 なんて思っていたその時、視界に入ってきた大きなビルに、私は一瞬で目を奪われた。 それは青山商事の、大きな大きなビルだった。
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