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そして……午前六時半を過ぎた頃。
ひとりで家を出た私は、まだひと気のない朝の道を足早に歩き出した。
見上げた空は、どんよりとした曇に覆われている。
今にも雨が降り出してきそうな、生憎の曇り空だ。
健太にキツく言い過ぎたせいなのか、思いのほかウォーキングの気分も上がらない。
親身になってプライベートまで私の力になろうとしてくれているのに……さすがにアレは言い過ぎちゃったかな……。
健太の顔を見るとイライラする、なんて。
別に…本心ではなかったのに。
「はぁっ……」
ため息をつきながら、私は俯いたままトボトボと歩いていた。
だけどその時。
背後から聞こえてきたコツコツ、という足音に、私は思わずうしろを振り返った。
……サラリーマンか。
50代くらいだろうか。
黒いスーツ姿に、髪を後ろで結んでいる男性が、私のすぐ後ろを歩いている。
その距離、およそ10メートル…ないくらいだ。
早足なせいか、少しずつ距離が縮まってくる。
と同時に、私は何故だか怖くなり、嫌な胸騒ぎがした。
朝だといっても、前にも後ろにも誰もいない。
つまり、この路上には私と後ろの男性だけ……だ。
……って、何考えてんの私。
いくら何でも93キロの巨体に寄ってくる人なんて……ね。
そんなモノ好きな男なんて……
ドキドキする胸の音を感じながらも、私は怖がらずに歩くスピードを落とした。
そうだ。後ろを歩かれているから変な気分になるだけ。
そうそう。
追い抜いてもらって前を歩いてもらえばいいんだから。
そんなことを考えながら、足音がすぐ後ろで聞こえた、その時だった。
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