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「喜助さん、粥のお代わりは?」
開け放った襖の向こう、囲炉裏の側に藍染の着物の女が、喜助に笑顔を向ける。女は名を「おつた」と言った。
「……すまねぇな」
布団から半身を起こした喜助は、ちょうど空になった椀を差し出した。
ツッと歩み寄って、おつたは椀を手に囲炉裏に戻る。
女盛りの細い腰と形の良い尻。着物の後ろ姿に、喜助は堪らなく色香を感じていた。
骨折から全身に回った高熱は、喜助を三日間苦しめた。時折目覚めると、常に彼の傍らにはおつたが控えていた。
最初の夜こそ、そっけない態度に感じたが、日を追うにつれ、彼女の甲斐甲斐しさが喜助の身に染みた。
彼女が喜助の汗を拭き、着物を変える度に、柔らかな白肌と赤い唇が彼の心を鷲掴みにした。
「はい、たんと召し上がれ」
自分に見とれる喜助に微笑んで、その手に粥を盛った椀を握らせた。
「――おつた」
椀を渡したおつたの腕を荒々しく掴む。トン、と彼女の体重が喜助の胸に凭れかかった。
「喜助さん、待って」
渡したばかりの椀を脇によけてから、おつたは小さく頷いた。赤い唇が微笑みの形を保っている。
こうなることを彼女も待っていたみたいだ――。
喜助は、欲望に突き動かされるまま、おつたを求めた。
帯を解くと、はだけた藍染の着物の間から、餅のように白い乳房が覗く。
折れた右足は不自由だが、他は至って健康な二十の若者だ。
喜助の激しさを、おつたは嬉しそうにクスクスと笑いながら受け入れた。
重なり合う二人の側で、襖一枚隔てた外では、蔦の葉がサワサワ、サワサワと大きく揺れていた。
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「……親父は、いつ戻るだろうか」
「喜助さん?」
おつたを腕に抱いたまま、喜助は視線を宙に向けた。吸い付くような滑らかな柔肌は、身も心も喜助をとろかした。
「親父が戻ったら、祝言を挙げたい。いいだろう、おつた」
おつたは喜助の左側に身体を密着させたまま、「嬉しい」と頷いた。
久兵衛が村に帰ってから、半月が過ぎた。
正確には、喜助が熱で苦しんでいた最中、おつたに伝言を頼んで、この庵を離れたそうだ。
『歩けない喜助を残すのは忍びないが、村に戻ったら、若衆を連れて迎えに来る。それまで息子を頼む』
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