其ノ七

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「喜助さん……外の蔦を見たでしょう? あの蔦と私は一心同体。養分が足りないと、枯れる定めなの……」 「だが、俺と暮らしていたふた月余り、お前は美しかったではないか?」  馬鹿正直な喜助の問いに、おつたは寂しげに口元を弛めた。 「――それは、まだ養分が足りていたから」 「養分とは何なのだ」 「……喜助さん、あんたの足に傷があるでしょう?」  ゾクリとした。  弥太郎の言葉が思い出される――『脛の傷痕が蔦のようだ』。 「やはり、お前は俺を化け物に変えたのか」  喜助の目付きが険しくなる。猟銃を握る手に力が入った。 「あの夜、あんたは酷い怪我と熱で……こうするしか救えなかった。でも、あんたの若い血は、私を随分生き返らせてくれたわ……」  彼女は目を伏せた。その表情は、老けてなお、かつての彼女が時折覗かせた悲し気な表情だった。  喜助の心に迷いが広がる。  庵に着くまでは、腹の底から憎しみが沸き上がるのではないかと思っていた。  自分から故郷を奪い、人であることを消し去った化け物を、撃ち殺すつもりで弥太郎に銃弾をもらったのに。 「――おつた、俺をなぜ生かした? どうして一息に殺さなかったんだ?」  赤みの薄れた唇が、綺麗な弧を描いた。 「それは……あんたに惚れたから」  喜助は嘆息を付いた。  あぁ、俺には無理だ。  正体を知ってなお、醜い姿を恥じて弱々しく佇む彼女が、堪らなくいじらしい。  村に帰るまでのふた月余り、彼女はいつでも自分を喰い尽くすことができた筈だ。それなのに、甲斐甲斐しく介抱し、睦まじく寄り添うことを選んだ彼女を、どうして手にかけられようか。  一歩近づくと、そっと彼女の頬に触れる。弛んで皺の寄った肌は、しっとりと冷たい。 「俺の血があれば、若返るのか」  じっと丸い瞳を喜助に向けて、おつたはコクリと頷いた。救い手を見つけた迷い子のように、素直な眼差しだ。 「……そうか」  喜助はもう一歩進み、身を固くしているおつたを胸に抱いた。  吸い付くような柔肌ではなかったが、腕の中の存在はしっくりと馴染み、自分も同質のものになったことを示しているようだった。
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