船霊

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 平成8年5月10日3時18分 子年生 神向寺家から東南方向。母子家庭の一男一女。一人娘。顔立ちは両親の良きところをとり、聡明尚かつ利発で親思い。そのもの達に、労りを持って接することにより、神向寺家の徳を成す。  船の守り神、即ち、船霊のご神体として、その子の髪を一握り切り、神社に納めとする。  尚、その子が初潮を迎えた日から、船霊としてのご神体は汚れあるとして、祀ることはせぬように。しかし、その子は神向寺家にとっては、最良の縁となり、五代目の跡取りへと、幸福をもたらすものたちだ。そのもの達の行く末も、末代まで護られるであろう。  長々な毛筆で綴られていたのを、女性の脇にいた、若い女性が付いて語られた。  神を降ろしてお告げをした、拝み屋が伝えた事を、巳ノ助は肝に銘じた。   この地では、限られた人達だけが乗る久美子達には、縁のない外車が、久美子の玄関前に着いた。  ご近所の人達は物珍しく集まってきたのは、言うまででもない。  盆と正月が一緒にやってきたかの様である。  史恵は隣の小学3年生のミカの家で遊んでいたのだが、自分の玄関口が騒々しいので、外に出てみた。  今まで見たことの無いゾロゾロと運ばれて来る、届け物の多さにビックリして、直ぐに家の中に居る、隼人のもとに駆け込んでいった。  隼人が居る四畳半の部屋の襖は開いていたので、当然、隼人も何が起こったのか?直ぐには理解出来ずにいた。  届け物のは、6畳の部屋にビッシリと納められた。  桐箱に入った煌びやかな祝袋。  お米一俵に、銘酒箱入りの日本酒。  名産品に、鯛の尾頭付き。  女物着物一反。子ども着物一反。  大人、子ども男女浴衣二反。  女物下着一式、女物上下洋服5着。  靴代金としての商品券。  キャラクター商品に、加えて玩具。  史恵はおもちゃの数々の多さに 驚いた。 兄の隼人は小学5年で、史恵より冷静であったが、母は如何してるのか?と、気に掛けて見たら、戸惑いながらも、目に涙が滲んでいた。  あまりの嬉しさに泣いたのか?  施しを受けて嬉しさに泣くような、母ではないと、子ども心にそう思った。   史恵の母久美子は、ただただ頭を下げて、お礼の言葉を何度も、何度も言った。    
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