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赤いバラが好きそうだったんだけど。念のため、ヨーグルトと食パンも持ってきてみる。
「アソラさん、何か食べますか?うーん、やっぱりこっちのバラの方がいいですか?うわっ!?」
寝言のように「腹が減った」なんて呟く彼の口元にヨーグルトを持っていくと、プイッと顔を背けられた。今度はバラの切り花を向けてみる。
すごい早かったわ。食いついてきたの。グリンッバクッ!って感じで、こっちを向きながら大きな口を開けて、一口であたしの手元まで。
あまりの迫力に指までかじられちゃうかと思ったわ。心臓がバクバク言ってる。
「ありがと。でもいいの?俺、本当に花以外は食べられないんだけど。花屋さんにとっては致命的でしょ、商品を食べられるわけだし」
「そうだけど、あなたを見捨ててまたどこかで行き倒れられちゃったらって思うと放っておけないのよ。廃棄寸前のお花でよければ食べてもいいわ。それに、あたしの手料理を食べさせてあげる」
「いや、だから俺は人が作る料理は食べられな――」
「た・べ・る・の!少しずつでいいから、食べる練習をしていけばきっと普通に食事できるようになるわよ。あたし、料理の腕には自信があるの」
「…………わ、わかった。よろしくお願いします……」
ちょっとしなびたトルコキキョウを2本食べさせ、持ってきていた救急セットで傷の手当てをする。あれ、思っていたよりも軽症?
血は止まっているし、最弱らしくボロボロになっていたのに傷が浅くて絆創膏とガーゼと包帯だけで済んだわ。
とりあえずの手当てが終わって道具を片付けていると、彼があたしに目を向けているのに気が付いた。包帯が巻かれた腕を眺めて、それからまたあたしに目を向けて。
不意に彼の手が伸びてきて、ヨーグルトとスプーンを手に持った。あ、食べるの?小さいスプーンに半分だけ掬って、ジッと見つめて、匂いを嗅いで、それから口に運ぶ。
食べた。でも、首をかしげて悲しげに目を伏せるとあたしに返した。
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