綺麗な花にはトゲがある

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 突然打ち明けられた、普通のご飯を一切食べない理由。味がわからないって。お花以外何の味もわからないなんて、花喰みだから?なら、他の花喰みも皆そうなの? 「花喰み自体の数は少ないんだけど、たぶん俺だけじゃないかな?最弱だし、力が悪い方に偏ってるしね」  そう言ってアソラさんは笑っているけど。笑えないですよ。しかも「生まれつきだから、今まで1度もちゃんと食べたことがない」なんて聞いちゃったら、胸が苦しくなった。 「……だったら、ますます食べる練習をしなきゃ。食べることに慣れたらきっと、いつかは美味しく食べられる時が来るからっ!」 「いいよ。嬉しいけど、ミサキさんは1人で店をやりながらなんだし金銭的にもきついでしょ?俺の食費なんて負担にさせたくないし、俺は花喰みらしく花を――」 「アソラさんは花喰みであるよりも前に、1人の人間です」  朝食を食べ終わって、あたしがお花達に水やりをしているそばでアソラさんが花がら摘みをしている。時々、摘んだ花を食べているわね。  自然とそんな言葉がこぼれた。ずっと「んー、美味しい」って嬉しそうに呟いていた彼が急に静かになったから、水がかかっちゃった!?って慌てて振り返る。  目が合ったわ。深い空色の2つの瞳で、あたしをジッと見つめている。どうしたの? 「……あ、い、いらっしゃいませー!」  逃げた。お客さんが来たみたいで、摘んでいた花がらとハサミを放り出して行っちゃった。本当に、どうしちゃったのかしら?  お花に関してはあたしより彼の方が詳しいし。接客は彼に任せて、あたしは水やりを続ける。って、彼に意識が行っちゃってたからバラエリアがビショビショに!?  慌てて余分な水気を取っていると、コツンコツンとヒールの音が近づいてきた。
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