綺麗な花にはトゲがある

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「なっ!?あ、がっ……ぎぃ、あぁぁぁ……!!」  アソラさんが、花妖を喰っているから。鋭く長い爪をギリギリでかわし、パシッとその腕をつかんで喰らいついたの。  あたしに見えないよう背を向けているけれど、彼が頭を振るとブチブチッ!と肉が裂ける嫌な音が聞こえて、あたりに真っ赤なバラの花びらが舞い散る。  かなり弱っていたから?悲鳴が聞こえなくなってアソラさんが振り返ると、そこにはもう花妖の姿はなかった。  代わりに彼の手には、わずかに残ったバラの茎。食べちゃったんだ。モグモグしている彼はチラッとあたしに目を向けてから目を伏せて、残りの茎も口に放り込む。 「終わったよ。いつも巻き込んでごめんね。ディールさんとカインさんも、全部俺のせいだから。今日のことは全部忘れて幸せになってください」  何だかあっけない最期だったなぁ。2人の愛と幸せで弱体化したとはいえ、まさかアソラさんに食べられちゃうなんて。  抵抗もできないって感じだった。手をつかんだアソラさんの顔を見た花妖の、表情が変わったの。心底怯えていたわ。 「忘れはしないさ。花がいきなりバケモノになって襲ってくるなんてわけがわからないけどさ、あんたは助けてくれた。それにこいつともより一層仲良くなれたしな」 「うん、俺も忘れない。死ぬかと思った。ディールさんと一緒に死ねるなら本望だって思ったけど、またこうして一緒にいられる未来を諦めたくなかったから」  強いのね。2人は手を差し出し、アソラさんと握手を交わす。  その人はお花を主食にしちゃってる人ですよ?しかも花妖も食べちゃって。現実ではありえないことが次々と起こったっていうのにこの2人、全部受け入れちゃってる?  あぁもしかして、お互いのことで頭がいっぱい?幸せいっぱいで、お花のバケモノに襲われて死にそうになったことなんてかすんでしまっているのかしら。
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