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――翌日。今日は普段と同じくらいのお客さんが来たわ。とはいえ、来てくれるのは常連のお客さんと偶然見つけて立ち寄ったっていう初見のお客さん。
常連のお客さんにアソラさんを彼氏だと勘違いされちゃうのは見事に毎回で、もう慣れちゃった。
初めてのお客さんには新婚夫婦だと思われてたみたいで、去り際に「また来ます。次に来た時には跡継ぎの子が見られたらいいな」って言われて。
もう顔から火が出そうなくらいよ。あたしもアソラさんも、鎮火するまで顔を合わせられなかったわ。
「ミサキさんはさ、俺のことを詮索しないんだね。もしかして肝っ玉お嬢さん?」
突然、そう声をかけられた。最後の部分はともかく、どうして急に?どうして今、帳簿をつけて赤い文字にピリピリしている今なの?
ちょっとキレそうだったわ。こめかみに怒りマークがついていたかも。でもね、顔を上げて睨んでやろうと思ったら彼、不安そうな顔をしていたの。
「出会ってもう3日。ずっとそれとなく様子を見ていたけど、君は1度も俺のことを問わなかった。花喰みだということ以外何も知らないのに、怖くないのか?」
「聞いてほしいんですか?正直に言えば、聞いたところで教えてくれなそうだから。それこそ、出会ってたった3日の赤の他人にはそう簡単に打ち明けられないような深い事情を抱えていそうだし。怖かったのは最初だけで、知らなくても都合が良くも悪くなるわけでもないからですよ」
ただの興味本位で聞いてみたいって思ったことは何度もあったわ。アソラさんがどこから来て、どこに向かっているのかとか。
旅をしているのに、こんな所に長居をしても大丈夫なのかとか。何となくで話をしてみたいって思うだけよ。
彼が怪しい人だから調べ上げるとかじゃない。聞かずに、逆にあたしが聞かれたら包み隠さずなんでも話しちゃうからそう思ったんでしょうけど。
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