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「あ……その、食べちゃったお花、せめて半額は払ってください。もう半額は、倒れちゃうほどお腹を空かせていたようなので寄付です」
「ごめん。俺、花のことになると抑えがきかなくて無意識に。いくらになる?えーと1730円?じゃあ、怖がらせてしまったし2000円で…………あれ、財布がない」
申し訳なさそうにペコッと頭を下げた彼はポケットに手を突っ込みゴゾゴゾ。財布がないと全部のポケットを探しているけど、これは何も持ってなさそうね。
やがて彼はチラッとあたしに目を向けて、冷汗を浮かべて、土下座。
「働いて返します。ここで雇ってください!ついでに家もないので居候させてください、家事でも何でもしますっ!」
こ、こいつ……っ!信じられないにもほどがあるわよ。行き倒れるほどの辛い暮らしをしていたんだろうって同情しちゃってたのに。
まだまだ油断はできないのね。お金がないうえに居候を懇願されるとは思わなかったわ。悪いけど。
「む、無理です。はっきり言ってあなたは不審者です。怖くて怖くて、お花のお金はもういいですから、出てってください。ごめんなさいっ」
声が震えた。でもこれが事実。彼の手を握っていた手を振り払いながら下ろすと近くにあったある鉢植えに当たって鉢が落ちた。
お花を食べて本当に元気になったみたい。俊敏に伸びてきた彼の右手が鉢の下に潜り込み、フワッと抱きかかえる。
ホッと彼が安堵したのもつかの間。彼の腕の中で、黄色いゼラニウムの鉢がビクッと跳ね上がったの。
いきなり、それも勝手に彼の腕の中から飛び出した黄色いゼラニウムは急激に枝葉を伸ばし、あたしと彼に襲いかかってきた!?
ハーブみたいな香りがフワッと広がって、でもとんでもなく急成長した黄色いゼラニウムはシュッ!とあたしの腕を擦りむいて。
葉と茎にある細かい毛が鋭くなってまるでヤスリみたいになってるのよ。だからかすっただけでも血がにじんできた。
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