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しかも黄色いゼラニウムはどんどん大きくなっていて、あっという間にあたし達と同じくらいの身の丈になると黄色い光りに包まれる。
そして、その光が治まるとそこには1人の女性。大人の色気が香る、黄色い髪に濡れた黄色い瞳。腕から黄色いゼラニウムが生えた女性。
あの黄色いゼラニウムの鉢植えが変身しちゃったの?もうわけがわかんない。血が流れる腕を押さえて呆然としていると、グンッ!と腰を引かれた。
直後、あたしがいた所に彼女の腕が振り下ろされた。緑色の腕からは太く長い針みたいな毛がビッシリ生えていて。あんなので殴られてたらあたし、全身血だらけだったかも。
「あぁ怖い。ついにこの町にも来てしまったのね」
黄色いゼラニウムの女の人が喋った。濡れた黄色い目で悲しげに、彼を睨みつける。優しそうな綺麗な顔立ちなのに、どこか悲しそうな瞳の奥に渦巻く炎が見えた。
「君が俺を“怖い”と恐怖する心と俺の力でただの黄色いゼラニウムが花妖化してしまったね。あぁ、花妖っていうのは人間に危害を与える悪い花の精のことだよ」
「な、な、なんでそんなものが……あなたは一体、何者なんですか?」
「俺の名前はアソラ。花を食べて生きる、花喰みのアソラ。あぁやって花妖が生まれてしまったら退治する、それが俺の役目なんだ」
悪い花の精、花妖?なにそれ、まるでおとぎ話。でも信じられないなんて言ってられない。血がにじむ腕がズキズキ痛むのはこれが現実の証拠。
アソラさんがこの花妖を退治する人なら、やっぱり戦って倒すのかしら?店をメチャクチャにされたくないんだけど。
そんなことを考えている場合じゃないってわかってるけど。でも、この花妖は1歩踏み出すと「最悪の貴方に私は倒せないわ。貴方さえいなくなれば治まるんだもの、消えてちょうだい」と、彼を突き飛ばした。
太ももから下が根になっている。ウネウネうごめいている太い根が、尻餅をついたアソラさんの頬をかすめ赤い線を引く。
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