最後の恋

溢れた涙

「おかえり」

「ただいま」

帰宅すると、まだ母は起きていた。

午前1時を過ぎているというのに、実家に帰ってきている私のためにきっと起きて待っていてくれたんだろう。

「ごめんね、遅くなっちゃって」

「何よ、謝ったりして。珍しいわね。エリちゃんとサキちゃん元気だった？」

「うん、二人とも相変わらずで元気だったよ」

リビングのソファに腰掛けると、母は水を入れたグラスを目の前のテーブルに置いてくれた。

「ありがと。お父さんは？」

「あぁ、莉奈が帰ってくるまで起きてるって言ってたんだけど本当についさっき15分前くらいに寝ちゃったわ」

「そうなんだ…」

「あ、そうだ、大晦日には竜二も帰ってくるって言ってたわよ」

「そっか。お正月は賑やかになりそうだね」

毎年、お正月には兄が帰ってくる。

兄は今はお嫁さんの地元がある隣の県に住んでいて、私同様お正月やお盆休みぐらいしか泊まりでは帰ってこない。

帰ってこようと思えばいつでも帰ってこれる距離なのに。

まぁ、そう思っている私も同じような感じなんだけど。

帰ろうと思えばいつでも帰れる。
だからまた来月でいいか、と気がついたらそうやって時間だけが流れている。

「莉奈、お風呂沸いたわよ」

「うん、ありがと」

「お母さんもう寝るから莉奈もお風呂あがったら早く寝なさい、あ、ちゃんと髪乾かしなさいよ、風邪ひくから」

「ふふっ、分かった分かった、おやすみ」

何だか懐かしかった。

ちゃんと髪を乾かしなさい。

実家にいた頃、お風呂上がりの濡れた髪でそのままリビングにいることが多かった私に、お母さんはよくそう言っていた。

今は髪、ちゃんと乾かしてるよ。

私、もう大人だもん。