溢れた涙

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「ありがとね、莉奈」 「これもありがとな」 近くのショッピングセンターに買い物に行った帰り道。 紙袋を手にした二人と並んで歩いていた。 「そんなものくらいで喜ばないでよ」 クスッと笑いながら歩く夕暮れ時。 「あら、喜ぶのは自由じゃない」 「嬉しいもんだよ、娘にプレゼントされたものは何だって」 二人はそう言って笑う。 母にはマフラーと手袋。 父にはゴルフ用のシューズ。 お正月の買い物に行ったついでに、欲しいものを聞いて買ってあげた。 本当はもっともっと親孝行しなきゃいけない。 旅行にも連れていってあげたいし、もっと楽をさせてあげたい。 母は今年で57歳。 父は今年、60歳の還暦を迎える。 少し開いた距離。 若い若いと思っていた二人だけど、前を歩く二人の後ろ姿を見ていると、ちょっと老けてきたなと感じた。 父は少し痩せた気がする。 背中が昔よりも小さくなった。 母は白髪が増えた。 寒くなってくると、関節や肩が痛むらしい。 昔に比べると変わったね。 あんなに大きいと思っていたお父さんも、若いなって思っていたお母さんも、歳をとった。 時間は毎日動いている。 一分一秒、確かに流れていく。 季節は移り変わり、めぐっていく。 いろんなことを考えていると、視界がぼんやりと滲んだ。
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