鳴らない電話

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しばらくすると、聞こえてきていた雰囲気が静かになった。 「どうしたんですか?」 椎名の声が、ハッキリと聞こえた。 「うん…ごめん、別に用はないんだけど…かけちゃったっていうか…」 「…はい」 椎名の声は、やけにアッサリとしていた。 自分との温度差をひしひしと感じた。 「っていうか今、大原くんが五万円損したとかなんとか言ってきたんだけど、何のこと?」 「えっ?あっ……何のことですか?酔ってたんじゃないすか?今カラオケ来て飲んでるんで」 「……営業部の人たちと?」 「いや……あとは…桐谷と佐倉さんと。あと…早川さんがいます。急ぎの用ですか?」 えっ…? 「いや、ううん。急ぎとかじゃない。大丈夫」 「そっか」 「じゃあ、カラオケ……楽しんでね」 「……はい」 短い通話時間だった。 切れてしまった電話を見つめながら、キュッと唇を噛み締めた。 椎名は今、早川さんと一緒にいる。 どうしてそのメンバーなの? どうして早川さんと一緒にカラオケになんているの? 訳が分からなくて、苛立った。 だけど、苛立ちを通り過ぎるとただ悲しくなった。
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