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「あのさ…」
「はい」
ぎこちなく空いたベンチの上の距離を見つめながら、私は口を開いた。
「サヨナラって…送ってきたじゃん?」
「はい」
「それって、もう終わりってこと?」
「えっ?」
椎名は何故かふっと笑った。
「あのね、サトルのことは…違うの。あの日熱出してて本当に弱ってて…椎名に電話しようと思ったけど…あのカラオケの時、すぐに電話切られちゃったから…かけにくくて…」
うまく言葉にできない。
私、ちゃんと伝えられてる?
「それであの人に電話したってことやろ?」
「えっ…電話したっていうか……そう…なんだけど…」
「もうハッキリしてるやん」
「何が?」
「松永さんはあの人のことがまだ好きやねん」
椎名はそう言うと、スッと立ち上がった。
「つーか、もうゲームは終了」
「ゲーム…?」
「いやー、営業部の先輩達とゲームしてたんですよ。6人で初めて食事に行った日あったでしょ?」
「……うん」
「あの時、食事に行く前に何でだか松永さんの話になったんです。で、二年も彼氏がいない30手前の松永さんを若手の俺がおとせるかどうかって話になって」
30手前の私を…?先輩達とゲーム?
「えっ、あの、ちょっと意味が分かんないんだけど」
動揺しながらそう言うと、椎名は私を見下ろして口を開く。
「だから、俺が松永さんをおとせるかどうか。賭けゲームしてたんです。損したっていう、さっきの先輩たちの声聞こえませんでした?あっさりと付き合えたおかげで、俺、五万も儲かりましたよ」
「なっ……何それ…」
言いながら、思い出された不可解な出来事たち。
そういえば大原くん、私に五万損したとか……前にそんなこと言ってたような気がするけど…もしかして、あれってそういうことだったの?
「でも、簡単すぎてびっくりしたなー。アラサーの独身女って意外におとしやすいんですね」
「……ウソでしょ?」
「はい?まさか本気にしてたんですか?俺、まだ23ですよ?」
椎名はそう言うと、またふっと笑った。
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