そばにいて

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「捨ててくれって言われたけど…捨てれるわけないよ。返さなくていいって言われたけど…それじゃあずっと、このまま持ってなきゃいけなくなる」 黙り込むサトルに、私は言葉を続けた。 「だから返しに来たの」 そして、言いながらサトルの手のひらに指輪ケースをそっと置いた。 静まり返る夜の公園。シーンとした空気が私達を包んでいる。 「ほんと律儀だよな、お前」 サトルはそう言うとクスッと笑い、私が返した指輪ケースを開くと指先で指輪をそっと掴み、それを見ながら話し始めた。 「俺さ、ほんと後悔してるんだ…あの時お前と別れたこと。多分これからもずっと…一生この後悔は消えないと思う。たとえこの先また誰かと出会ってまた誰かを好きになって誰かと結婚しようってなってもさ……ずっとこの後悔は消えないと思う」 黙って頷くことだけしか出来ない。 どう返せばいいのか分からなかった。 「莉奈があいつを選んだことが悔しいとか、あいつに負けてムカつくとか…そういうことは思ってない。自分自身に腹が立つんだ…バカなことして血迷った自分が情けなくて…悔しいんだよ」 サトルはそう言うと、掴んでいた指輪を両手で握りしめた。 「返されてもさ………俺だって捨てられんねえよ…」 そして、悲しい声でそう言った。
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