第一章 あの日のきみともう一度

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 卒業してから一度も足を踏み入れたことがなかった懐かしい母校を一瞥して、昔はここで泣いたり笑ったり、なかなか忙しい中学生活を送ったものだなぁとふと思いにふける。 雲一つない青空にじりじりこちらに向かって高音の熱を放つ太陽。けたたましく響く蝉の鳴き声。遠くの方で何かの部活の掛け声が聞こえる。  ああ、今も変わらず夏なんだなと朦朧とした頭で思いながら、なぜ自分はこんなところにいるんだろうと今さらながらに現在おかれている状況を考えることとなった。  いや、考えるほどのことでもない。気付いたらここにいたのだ。  実は、自分が思っている以上に振られたショックは大きかったようで、ここまで無意識のうちに来てしまったのかとも思った。この頃、中学校という空間は私たちの思い出の場所でもある。  異変に気付いたのは、思ったよりも早かった。いや、気付かざるを得なかった。  なぜならこの母校は、私たちが高校二年生に上がる頃、隣町の中学校と統合されるとかなんとかで校舎拡大のため立て直しになったと聞いた。取り壊すことになると聞いて、最後に見に行こうとあわてて開かれた同窓会もあったほどだ。結局、私はその場に参加をすることはできなかったけど、何もなくなってしまったこの場所を自分の目で確認することはできた。にも関わらず、当時と変わらないその姿が目の前に存在することに違和感を覚えるしかなかった。そして、夏休みのように見えるが、幾人すれ違う生徒たちの視線を感じ、気付いたことがいくつかあった。  そりゃ、ここでは場違いな高校の制服を着た女子がいきなり中学校をうろうろしていたら目に付くだろうとは思うけど、その中に、何人か見知ったメンバーがいた。見知ったというか、よく知る彼らよりも少し幼く見える彼らの姿に目を疑った。  兄弟なのかとも思えたが、どうもそうでもないらしい。現に、すれ違ったほとんどの人間が知り合いたちの兄弟姉妹なはずがない。恐ろしくめまいがするほどの現実と向き合う必要がありそうだった。  気味が悪くなり、早くこの場から立ち去ろうと校門のところへ向かうが、向かう途中でまた同じ場所に戻ってきてしまうという信じたくない状況に私は陥っていた。
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