犬になった女

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そしてしばらく月日が経った。 代わりの体は手に入らずに、女性はずっと犬の体での生活を余儀なくされていた。 慣れない犬としての生活。元々人間なのだから他の犬が何て言ってるかもわからない。 頼れるのは男だけだった。 しかし、その男も最近様子がおかしかった。 ことあるごとに自分の前から姿を消し、どうも後ろめたい様子が感じられたのだ。 「悪い…」 男は女性にそう謝ると、犬の運搬用のケージに彼女を詰め込み車に載せて、 道を急いだ。 不安げな顔で彼女は辺りをキョロキョロ見渡した。 目的地に着き、男はケージを車から降ろし、女性をケージから出すなり車で走り去った 。 女性は驚きのあまり必死に男の車を追いかけたが、 慣れてない手足に車とではスピードが違いすぎて到底追いつけなかった。 それから彼女の生活は地獄のような生活に一変した。 ご飯を食べようにも犬の彼女に食料を手にいれるすべはなく、 残飯を食い漁る他の犬を見ては悲しげにウーっと呻る《うなる》ことしかできなかった。 メス犬の体になった自分を見て、オス犬が駆け寄ってきて交尾を迫ってきたときは 必死になって逃げたものだ。 そうした犬の生活から疲れ、道端で力なく倒れてるところを知らない人に拾われた。 普通の生活にありつけるのがすごく嬉しかった。 嫌われないように、恥ずかしい気持ちを必死に抑えて犬としての芸をした。 嫌われないように、犬として当たり前の行動を心がけた。 ふと鏡を見ると犬の自分の姿を再確認する。 自分がしたかったのはこんな生活だったのだろうか? 普通の生活をするためにプライドを捨てて、(こび)を売るような生活がしたかったのだろうか? 生きることが唐突に馬鹿らしくなった。 彼女はふらふらと飼い主の家を飛び出して、道を走る自動車の前に飛び込み自殺した。 彼女は男に必要とされたから生き残り、男から必要とされなくなったから死んだのだった。
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