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犬になった女
それは唐突な事故だった。
男と歩いていた女性を大きなダンプカーが
激しいエンジン音とブレーキ音と共に跳ね飛ばした。
救急車がけたたましくサイレンを鳴らし、
病院に着くなり、大手術が始まったのだ。
「先生彼女は助かるんですか?」
容体を説明しにきた先生に男が必死に問いかける。
「現代医学では…もうどうすることもできません」
その言葉に男は声をなくし、全身を震わせた。
「しかし、手がないこともありません」
「え?」
医師の突然の言葉に、顔を上げる男。
「今ちょうど犬の検体が一体余っていて、
人間の脳を移植する手術をする予定だったんですよ。
あなたのお連れさんでどうですか?」
ショックな言葉に愕然とする。
「このままでは彼女はどのみち助からない。
彼女を殺すか、それとも万が一犬になってもいいから助けたいと思うのか…」
男の出した結論は後者だった。
例え犬になっても、男は女性に助かって欲しかったのだ。
そして、その手術は無事に成功した。
女性が目を覚まし体を動かすと、そこには見慣れない毛と爪、そして肉球があった。
口は自然と開き、舌が垂れ下がり、「はぁはぁ」と息が漏れた。
これはおかしいと鏡を見ると女性は犬になった自分の姿を確認した。
「わんわんわん!!!!」
悲しいかな犬の口では鳴くことしかできず、
感情を訴えることもできなかった。
その声を聞いた看護師が喜びの声をあげ、男に連絡を入れる。
そして来た男は生き残った犬を見て大喜びで抱きしめた。
「よかった!!!!死ななくて…今はまだ犬の体かもしれないけど、
いつかそのうち人間の体に戻してやるからな!!」
犬の体を抱きしめ、ボロボロと泣く男に、
女性は…こういう結末もありなのかなぁとなんとなく考えていた。
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