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「ふう、『おいしい』という言葉が出なかったから、私の勝ちですね!」
その瞬間、倉科さんの頭の上にマスターの重そうなげんこつが落ちてきました。
「もうほんとすみません、逆にどこまで恥を重ねることができるのか見守っていましたが、あれで限界でした」
「いえ、よく耐えられたなあと」
僕達の脇では倉科さんが頭を抱えてうずくまっています。
「もちろん、今回のお代は結構ですので」
「いえ、そういうわけにはいきません、ちゃんとお支払いします」
藍さんは本当に律儀でした。
件のパスタはといえば、倉科さんが店長の天誅を食らった後、僕も食べてみましたがシンプルな食材と調理法なのにまるで熟練の中華料理屋の親父さんが作ったチャーハンのような病みつきになる磨き上げられた美味しさでした。
おそらく、僕が同じ材料と調理法で作っても、ここまで夢中になるような味には絶対に仕上げられないと感じました。
「……じゃあ、材料代だけ、二人分で四百円だけいただけますか」
マスターが優しく提案し、そのあとお詫びにと紅茶を入れてくれました。
そして、ようやく僕は本来の目的の心霊相談を始めました。
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