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プロローグ
人には言えない秘密がありますか?
僕には、人に言えない秘密がある。
それは、君の秘密を知ってしまったという事。
初めて君に出会った日の僕は、君はただの変わってる人なんだと思っていた。
そして、謎ばかり抱える君には、
本当に何度も惑わされたのを今も鮮明に覚えている。
とても近寄り難い空気感を放つ君に対して、
あの頃の僕は何て話しかければいいのかもわからず、目が合うことすら怖いと感じていた。
情けないほど内気で、臆病だった僕はそんな君の事を後々、
学校の誰よりも理解していたつもりだった。
君の秘密を初めて知った瞬間、全部嘘だと思ったんだ。
そんなことある訳がない、ありえないって。
時には、躊躇いもなく自分自身の考えだけを疑ったりもしてみた。
だけど、君と過ごした日々は嘘にはならない。
机の上にそっと積み重なった写真の中で、笑っている君と、いつも君が使っていた水色のノート。
それが過去の思い出は事実だったと、確かに証明している。
君のことを誰かに話せば、
誰かはきっと、それを『夢』と呼ぶだろう。
誰かはきっと、それを『嘘』と笑うだろう。
僕は積み重なる写真と君が残した水色のノート、それらをまとめて箱の中へ隠すようにしまった。
僕らはもう会えないということを痛いほどわかっている。
この悪戯とも言える運命と僕らの最後に、
『さようなら』という言葉は相応しくないと思うんだ。
汐風に靡くその後ろ姿が、愛しくて懐かしい。
そして、一口も水を飲まなかった君に、僕は夢の中で会える事をひたすら願いながら、
徐々に熱くなる瞼を宥たくて、ゆっくりと、閉じた。
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