第1話 『潤い』

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走るバスに揺られながら、自分の抱える悩みに対して頭を抱えていた。 僕には、人に語る程の夢や目標がないということ。 宇宙規模で考えたらそんな大それた悩みではないかもしれない。 僕の心の中の世界では、暗い道の中で四方八方を通行止めの看板に邪魔をされている。 幼い頃なら誰だって一度は無邪気に口にしただろう。「お花屋さんになりたい!」「警察官になりたい!」とか。中学生になっても級友が将来の自分がどうありたいかを語る中で、僕は夢がないという事に関して、特に危機感や違和感も覚えなかったし、気にも留めなかった。 親を心配させる程、何事に対しても無頓着で、庭の隅に自生する雑草のように静かだった自分。 勉強に運動、そして父の勧めで通わされた習い事のピアノさえ、指先の不器用に途中で挫折。 ーー僕は、物事に対して、何一つとして熱くなれないでいた。 親父の心配の声は、日を増すごとに徐々に怒りの声へと移り変わっていった。 家に帰れば、「高校を卒業したらどうするんだ!」と呆れる親父の怒号が食卓でしばしば飛び交う。 十七歳の春を迎えた今、自分から進んで夢を、大袈裟に言えば生きる理由を、早めに見つけなければいけない。ーーという焦りと、義務感に駆り立てられていた。 この先どうでもいいとか、決して思ったりはしていない。 それなのに、どうしても見つからない。やりたいこと。これが僕の長年に渡る最大の悩みだ。 目が座ったまま呆然とした情けない顔でバスに揺られていると、誰かが僕の左肩を軽く二回叩いた。
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