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学校帰りの夕方
その日、俺は当直日誌を書くのに時間がかかっていた。
終わった時、気づけば教室のカーテンから夕日が差し込んでいた。
俺は、急いで教室を出て、職員室に日誌を届け出た。
中に入ると、担任の中林がコーヒーを飲みながら、学年テストの採点をしていた。
俺が近づくと、足音で気が付いたのか、
「おお、やっとできたか、ご苦労さん。どうだ、調子は。学級員の仕事も慣れてきたか」
どこをどう取ったら、慣れていると言えるのか。
ただでさえ、文章を書くのが苦手な俺に、こんな仕事を押し付けといて。
「特に。」
可も不可もなく
「困ったことがあったら言えよ。俺はいつでもお前の味方だからな」
「…はい。」
日誌を渡して、廊下にでる。
すると、ドアに寄りかかるように、水本遥が立っていた。
水本は、俺の方をちらっと見ると、視線を床に戻し、つぶやくように言った。
「ねえ、明日、時間ある?話したいことがあるんだけど」
「話って?」
「今は、言えないけど、明日、屋上に放課後来てくれないかな」
水本は、右足をそっと前に出すと、つま先をあげる。
夕日が水本の足を照らし、影が伸びる。
「いまじゃ、言えないことなの?」
「今はダメ。今日は仏滅だから。明日がいいんだ」
水本は言いたいことを伝え終わったのか、背中を半回転させ、廊下を歩き出す。
そして、数歩歩いた先で立ち止まると、「絶対だからね」と振り返り様に言い、走り出した。
俺は、小さくなっていく水本を見届けながら、髪留めのシュシュが変わっていることに気付く。
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