俺は君を幸せにするために神様になった

2/9
前へ
/11ページ
次へ
あれは、夜中の雨が全く止まずに迎えた朝の事だったと思う。 豪雨のせいでダイヤが乱れ、いつもよりも客が多い電車の車内。 開かない方のドアへと追いやられ、目の前に立つ見知らぬ女性を潰さない様にとそのドアへ手をつきひたすら踏ん張っていた。 とにかく必死だった。 だから…気が付かなかったんだと思う、背後から忍び寄る危険な影に。 「この人、痴漢です!」 なだれる様に降りた先で、いきなり後ろから手首を掴まれる。 ち、痴漢?! 俺が? いや、だって…両手はドアに着いてて… そう頭の中で思っても、予期せぬ突然の出来事に動揺し、気の利いた言い訳なんて出て来ない。痛い位に手首を掴み、俺を睨むその女性は、俺が潰さない様にしていた女性ではなく、見知った顔の人。俺の 会社の取引先一つである会社の受付嬢の人だった。そして、確信する。 俺は…嵌められたのだ。これは、彼女の報復なのだ、と。 彼女は出会った当初、気軽に声をかけてくれて、親しみ易いといった印象だった。営業で毎日駆け回る俺にとって、そうやってにこやかに挨拶を交わしてくれる人には心救われるところがある。だから、俺も、いつの間にか会えば必ず挨拶をし、世間話を二、三する様になっていた。 …けれど。 「松下さん!偶然ですね!」 休日、何故か、遭遇することが増え、暫く経つと俺の家の近くのコンビニにまで現れる様になった彼女。 取引先の社員を無下には出来ないけれど、そんなつもりもなかった俺は、適当に相手をして立ち去るという事を繰り返していたけれど、それがこの子にとっては不満だったのだと思う。 交換していないはずのスマホに連絡が来るようになり、着信に出ないとSMSで一日に100件を越えるメッセージが来る様になった。 『今日も素敵です』 『大好きです』 『お仕事をしている松下さん、最高に格好いいです』 メッセージが大量に来る様になってからは、姿をあまり見せなくなったけれど 『いつも見ています。』 それがかえって、不気味に思え、精神的に苦痛を強いられた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加