0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
ザァー、と、雨音が響いている。学校の昇降口で、傘を差して歩き出す生徒達を見送る。
今日の天気予報は、午前中快晴、夕方頃から雨。今日は職員会議で生徒は午前中で下校。その筈だったのに。内申を気にして生徒会に入った事を今更になって悔やんだ。今日生徒会活動がある事を覚えていたら、傘を忘れるなんて事は無かった筈なのに。一向にやむ気配のない鈍色の空を見上げ、僕は一人、溜め息を吐いた。
「傘、無いの?」
突然後ろから聞こえた声に驚き、振り向く。そこには、僕と同じ、生徒会の先輩の姿。短めの髪から肩にかけて、水滴が滴り落ちる。心臓が早鐘を打つ。そんな僕の気も知らず、先輩は優しい微笑みを向けている。
「…は、はい。」
短く返事をすると、彼女は僕の隣にやって来た。頬が熱くなる感覚。僕の肩くらいまでの身長の先輩を見下ろす形になってしまい、また、視線を上へ向ける。空には相変わらず、重く、どんよりとした雲が架かっている。
「雨がやむまで、一緒に居ても良いかな。」
不意に、隣から問い掛けられた。え、と思い、其方を見ると、困ったように笑う彼女と目が合った。
「私も傘、忘れちゃったんだ。」
戯けた様に笑う先輩。その表情が、本当に無邪気で、それでいて、残酷で。
ザァー、ザァー。やむ気配の無い雨の音が、屋根や地面を通して、僕の耳へと届く。
暫く沈黙が続く。傘を差して下校する生徒達の談笑の声が遠退いていく。
最初のコメントを投稿しよう!