雨音

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ピコンッ。軽やかな音が隣から聞こえた。メールが着たようだ。先輩は鞄から携帯を取り出し、画面を見る。大きな瞳を嬉しそうに輝かせる。恐らく、あの人からだろう。噂でよく聞く、先輩の恋人。教師を目指す大学生だとか。 「ごめんね、迎えが来るみたい。」 「ああ…いえ。」 「もうちょっと掛かるみたいだから、それまでお話しようよ。」 恐ろしいまでに無邪気な先輩は、僕の顔を覗き込み、そんな事を言ってくる。それが、嬉しくもあり、虚しくもあり。 暫く他愛のない話を続けていると、校門前に一台の車が止まった。先輩の恋人さん。先輩が其方に目を向けると、彼は軽く手を振った。 「迎え、来ちゃった。」 「…そうですね。」 じゃあね。そう言うと、先輩は早足に車へと向かっていった。ドアを開け、助手席に座る。嬉しそうに笑い合う二人に心が痛んだ。 ザァーと、地面に広がる水溜まりを車が横断していく。去り際に手を振ってきた彼女に手を振り返し、僕は一人、雨がやむのを待った。   ザァー、ザァー。雨音はまだ響いている。
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