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先生は、いつも笑って楽しそうだった。
「アイ、笑ってごらん」
先生と暮らし始めた当初、私はこんなことをよく言われていた。私が笑うと、先生も嬉しそうだった。
次第に、先生が笑う時は私も笑みを返すようになり、顔を合わせると私から笑うようになった。
先生は、とても嬉しそうだった。
ある日、その日常は一変した。
家に帰ってきた先生は、私を見るなり怯えた仕草をとった。笑いかけなくなった。声をかけなくなった。『アイ』と呼ぶこともなくなった。
そして、先生は何かに追い詰められたように、毎日テーブルに肘をつき、頭を抱えていた。私が先生を呼ぶと怒鳴るようになった。突き飛ばすようになった。
でも、最後は私を抱きしめて謝った。
私にはわからなかった。どうすればいいかも、何をしなければいいのかもわからなかった。
だけど、先生の記憶はどんどんと険しい顔に変換されていく。学習ができないのかもしれない。もしかしたら、私の欠陥部分に何か重大なことが隠されていたのかもしれない。そして、先生はそれを知ってしまったのかもしれない。
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