廃棄処分にして下さい。

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 先生は、いつも笑って楽しそうだった。 「アイ、笑ってごらん」  先生と暮らし始めた当初、私はこんなことをよく言われていた。私が笑うと、先生も嬉しそうだった。  次第に、先生が笑う時は私も笑みを返すようになり、顔を合わせると私から笑うようになった。  先生は、とても嬉しそうだった。  ある日、その日常は一変した。  家に帰ってきた先生は、私を見るなり怯えた仕草をとった。笑いかけなくなった。声をかけなくなった。『アイ』と呼ぶこともなくなった。  そして、先生は何かに追い詰められたように、毎日テーブルに肘をつき、頭を抱えていた。私が先生を呼ぶと怒鳴るようになった。突き飛ばすようになった。  でも、最後は私を抱きしめて謝った。  私にはわからなかった。どうすればいいかも、何をしなければいいのかもわからなかった。  だけど、先生の記憶はどんどんと険しい顔に変換されていく。学習ができないのかもしれない。もしかしたら、私の欠陥部分に何か重大なことが隠されていたのかもしれない。そして、先生はそれを知ってしまったのかもしれない。     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加