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ある日から、先生はとうとう家に帰らなくなってしまう。数名の男性が家に入り、先生の部屋の中をあさっていた。そして私は製造会社に連れ戻される。先生がどうなったのかは誰も教えてくれない。だけど、皆一様に黒い服を着ている。
どこかの部屋に閉じ込められる直前、私は『私』を見ることになる。人間の私を。培養器のような入れ物の中で痩せ細りながらも生きている私。その子を見た瞬間、頭の回線がつながる。
ああ、そうか。先生はこれを見たんだ。
私はこの子の代わりだったのだ。一日の終わりに眠るのは、この子に記憶を送るため。私が先に笑えるようになったのも、この子のおかげ。私とこの子は今もつながっている。
この子が誰なのかもわからない。なぜ、私が造られたのかもわからない。
ただ、自分自身と対面した今、涙が溢れて止まらなかった。
私は言う。
「お願いがあります。私を……」
そう言いながらも、私は私とこの子の生命維持装置と記憶のデータを消し始める。
「廃棄処分にしてください」
そして私は二度と戻ることはない深い闇に堕ちた。
END
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