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目を細め、眩しそうに笑う先生に、私の目からはとうとうぽろりと涙が落ちていた。
私が早乙女先生と出会ったのは大学二年の時。
たまたま選んだゼミの研究室にいたのが准教授の早乙女先生だった。
ひょろりと高い背を猫背に丸め、ださい黒縁眼鏡にかかる髪はぼさぼさ、先生は三十を越えているが、きっと彼女がいないどころか童貞だろうと予想した。
しかし予想に反し、歓迎会で妻の存在を知る。
先生の左手薬指に指環を発見してしまったから。
「早乙女先生って結婚されてるんですか」
隣に座ってビールを勧めると、すまなそうに先生はグラスを持った。
「えっ」
私の問いで弾かれたように一瞬、先生の身体がぴくんと揺れた。
ぐいっと注がれたビールを一気に飲み干すと、上がってきた炭酸をぷはっと小さく先生が吐き出す。
「……妻は僕にはもったいない人です」
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