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ばさっ、ばさっ。
断続的に紙をめくる音が静かな部屋の中に響く。
そこにいる私の存在を忘れ、早乙女先生は夢中になって私の書いた小説を読んでいた。
いま先生が読んでいる小説は、ラブレターといってもいい代物だ。
先生に恋い焦がれる気持ちをすべてたたき込んでいる。
そんなものを人に読ませるのは恥ずかしいが、先生には読んでもらうべきだと思った。
「ああ、すみません」
読み終わった先生はようやく私がいたことを思い出したようで、すまなさそうな顔をした。
「これは君が書いたんですか?」
四角い、黒縁のプラスチック眼鏡をはずすと、先生は鼻の付け根を揉んだ。
それもそうだろう、かれこれ一時間以上も集中して先生は読んでいたのだから。
「はい。
私が書きました」
「そう」
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