第1章

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便利屋AIAIの事件簿⑥~なくなる霜柱~ 1 「めぐちゃんて本当に探偵の弟子なの?」  PCでレポートを書いていた札所(ふだしょ)巡(めぐる)は、背後から声をかけられてびくりとした。  振り返ると、襖のわずかな隙間から小さな顔が二つ覗いている。  巡の自室は自宅一階の和室だ。出入り口の襖に鍵がかけられないので、勉強する時は声をかけないよう家族に厳命しているのだが、幼い甥姪には通用しなかったようだ。 「レモンとライムか。なんだ?」  ふたりは巡の一回り年上の兄・礼一(れいいち)の子どもで、兄が礼門(れいもん)(五歳)、妹が来夢(らいむ)(四歳)である。幼い頃に珍名でからかわれた巡としては、礼門の名づけの時、大いに反対したのだが、その月の市報の新生児紹介欄で阿斗夢(あとむ)と凱亜(がいあ)を発見し、兄夫婦の説得を断念した。第二子の来夢の時には、もはや止める気も起きなかった。  巡の問いかけにふたりは襖を開け、炬燵にいる巡の傍まで来た。 「あのね、探偵に頼みたいことがあるんだ」 「霜柱がなくなっちゃったんだよ。いきなり!」  甥姪は交互に巡に言う。年子で、丸顔に大きな目と顔立ちも瓜二つ、服装も色違いのパジャマに半纏なので、まるで双子だ。 「霜柱は溶けるものだろう。日が昇ればなくなるよ」  巡の返答に、礼門が頬を膨らませた。 「ちがう! 霜柱ができるはずなのにできないの! 毎日、夜に水を撒いて霜柱ができるようにしてるのに、朝行ってみるとできてないんだよ! この間までできてたのに!」 「はぁ?」 「早起きして行ってるのに、なくなっちゃってるんだよ! 誰かがとっちゃってる!」  甲高い礼門の声と、彼よりさらに高い来夢の声に、巡は辟易した。  レポートの手を止めてよく話を聞いてみると、兄妹は冬になってから毎晩、寝る前に家の前の道に水を撒き、霜柱ができるように細工しているのだという。そして早朝、母親とともに家を出て、霜柱を踏み壊すのを楽しみにしていた。しかし、ここ数日、できているはずの霜柱ができていないのだそうだ。気温が高くなったのではない。住んでいる父冨市は今季一番の寒さを更新し続けているし、兄妹は他の場所の霜柱はできていることを確認している。つまり、何者かが兄妹の霜柱をどうにかしてできないようにしてしまっている。だから探偵に頼んで犯人を捕まえてほしい。兄妹はそう訴えているのだった。
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