第1章

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「そんなこと毎日やってたのか。実(み)果(か)さんも大変だなぁ」  巡は義姉の苦労を思いやった。 「でもなんで、俺が探偵の弟子なんだよ。俺が働いてるのは便利屋だよ?」 「便利屋さんに探偵がいるんでしょ?」 「お父さんが、めぐちゃんはバイトで探偵の仕事をしてるって」  巡は兄が甥姪にいい加減な内容を教えたことに気づいたが、バイト先の便利屋AIAI所長、草鞋(わらじ)勝也(かつや)が元探偵なのは事実である。 「わかったわかった。明日の朝、霜柱の様子を一緒に見に行ってやるよ。家の前の道ね。裏道のほうだろ?」  札所家は幹線道路近くの住宅街の一角に居を構えており、玄関は車一台がやっと通行できる広さの生活道路に面している。一方、庭は人が何とかすれ違える程度の幅の裏道に面しており、そちらはもっぱら近隣の人々が通るのみだ。こちらの道は舗装されていないので、塀の前のわずかなスペースに植木鉢を置いたり直接花を植えたりしている家もある。おそらく甥姪は札所家のそのスペースに水を撒いているのだ。 「そうだよ。じゃあ明日、一緒に見てね」 「寝坊しちゃだめだよ」  姪っ子が生意気に注意して、ふたりは部屋を出て行った。巡はその背中を見送ってから、 「レポート……明日でいいか」  と呟いた。 2  翌朝。目覚まし時計より早く礼門と来夢の来襲を受けて、巡は寝ぼけ眼で外に出た。  甥姪はコートにマフラーに手袋、毛糸の帽子と完全防寒態勢で、ブルーとピンクの塊となってうっすら霜の降りた庭を走り回っていた。 「ごめんね、巡くん。早起きさせちゃって」  白い息を吐いて、義姉の実果が巡に謝った。彼女も分厚いコートでもこもこに着ぶくれている。  巡はパジャマの上に直接コートを羽織った格好で、マフラーも手袋もしていない。家の前を見るだけだから、と油断してこの格好なのだが、予想以上に気温が低く、すぐ後悔した。 「いいっすよ。すぐ終わるし」  がちがちと歯の根が合っていないながらも、巡はにっかり笑って庭を出た。庭と裏道はコンクリートブロックの塀で区切ってある。門扉を押して裏道に出て、さて、霜柱はどこだと周囲を見回して、妙なことに気が付いた。
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